何回かに分けて旅のレポートを書いていきたいと考えていますが、
まずは真面目な話から・・・

今回は様々な国と地域を回ってきましたが、
目玉は村上敦さんの案内によるフライブルク市内視察。

村上敦さんといえば、今日本で一番有名な環境ジャーナリスト。

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この方の存在無しに、今の日本のエネルギー施策は無いと言っても
過言ではないかもしれません。



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村上敦さんの最新の著書「キロワットアワー・イズ・マネー」
是非ご一読下さい。
※ショールームでも取り扱っております。


村上さんの住まうこのフライブルク。
日本の室町時代には既にフライブルク大学が創設されていたそうです。

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「市内中心部は原則マイカー乗り入れ不可。」

ドイツの中でも一際知的レベルが非常に高い人が集まる街であり、
このことが、環境問題についての取り組みの早さの一因にもなっているのでしょう。


更にその中でも最も先進的な住宅地が
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ヴォーバンの住宅地。

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この「パッシブハウス」の写真に見覚えがある方も多いのではないでしょうか?

このヴォーバンで見てきたものをレポートしたいと思います。




近年では環境に対する意識が高い方が増えてきたようで、
単に光熱費削減のためだけではなく、環境の為に太陽光やハイブリッドカーを選択される方が多いように思えます。

ところで、一番エネルギーを浪費している場所をご存知ですか?

答えは「発電所」

発電され実際に電力として消費されるものは4割弱程度。
残る6割強は、発電所で「熱」という形で放出しています。

つまり冷却のため等に海に熱を放出している訳です。

電力は原子力や化石燃料により作られる割合が多いのですが、
その大半は輸入に頼っています。

ということは・・・

輸入したエネルギーの大半を捨てているのが実情です。

つまり、電力を購入しているということは、
相当に効率の悪いエネルギーに依存しているということになります。

ではどうすれば良いのか?

・再生可能エネルギーの利用
・地域ごとに発電所を作る
・これまで捨てていた「熱」の有効利用
・エネルギーを消費しない建物にする

それらを実践しているのがドイツであり、
その中でも最も先進的なのがフライブルク・ヴォーバンです。





■再生可能エネルギーの利用

再生可能エネルギーとは、太陽光、地熱、バイオマス、風力などの、
反復的に補充されるエネルギーのことです。

ちなみにドイツでは2050年までに化石燃料の全廃、
つまり全てのエネルギーが再生可能エネルギーになるようです。

そのためにはインフラ整備はもちろん、建物の熱消費を削減することが重要となってきます。


「創る」→「極力使わない」→「余る」→「効率的に二次利用」


この流れが非常によく考えられており、
しかも着実に2050年に向けて歩んでいる印象を受けました。





■地域ごとに発電所をつくる

エネルギーロスを減らすためには、家庭内で発電することは勿論ですが、
地域毎に小規模なものを配置するのが効率的です。

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「ヴォーバンのコージェネ発電所」

バイオマス(木材チップ等)によるこのコージェネ発電所は、
非常に小規模なもので、建築コストも安価であり、
日本であっても各自治体レベルで取り組めるものかもしれません。

1万人弱の人口を抱えるヴォーバンの電力をカバーするのみならず、
後述の地域暖房の熱源にもなっています。

ヴォーバンでは既に町全体でプラスエネルギーとなっており、
余剰電力を他の地域に販売しているとのことでした。





■これまで捨てていた「熱」の有効利用

熱で温水をつくり、各家庭に循環させる地域暖房が普及しています。

エネルギーロスの少ない住宅を、地域暖房で暖めることで、
捨てるはずのエネルギーを最大限に利用します。

家庭での電力消費の3割程度は暖房によるもの。
この部分を捨てていたエネルギーで補えるとしたら、、、

ただし後述するエネルギー消費の少ない家でなければ、容量不足となり実現不可です。





■エネルギーを消費しない建物にする

ドイツの建物の省エネルギー性能の基準の高さは想像以上。
氷点下10℃以下の真冬であっても、人が集まれば無暖房でも過ごせる
レベルといいます。

ドイツでは合理的に省エネ化を推進するために、
熱消費の多いところから優先的に断熱改修を義務化してきました。

住宅の熱消費は全体の35%程度と高い割合を占めており、
オイルショック以前の無暖房住宅のストックが多かったために、
そのような建物から優先的に改修が推進されてきました。

結果として集合住宅でも快適な住環境が整ったようです。


前述の地域暖房で循環してきた温水も、
建物のエネルギーロスが少ないために殆ど冷めることなく
発電所に戻っていきます。

そのことで、小規模な発電所ながら、
多くの世帯をカバーする暖房が行える訳です。

日本の家だったら、
いったいドイツの発電所の何倍の規模のものが必要になるのか・・・

答えは分かりませんが、悲惨な数字になることでしょう。


ドイツでは厳しい性能基準があるため、性能の悪い建物は建築不可です。

一方日本には、「次世代省エネ基準」というものがありますが、
義務ではなく、基準値もドイツの30年以上前の基準程度。

低レベルな基準でありながらも、
義務ではありませんので、達成率も3割程度と低い数字になっております。

しかし日本の国交省も近年ようやく重い腰を上げ、
2020年まで段階的に一定基準以上の断熱を義務化していくことを決定しております。

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つまり一般住宅であっても、
遅くとも2020年までには現在の次世代省エネ基準以上の断熱性能基準が
クリア出来ていなければ建築不可ということになります。

前述の通り、国内で新築されている建物での達成率が3割程度と考えると、
7割の住宅は不適合。

つまり、今も建ち続けている住宅の7割は、
あと7年後には「建ててはいけないレベルの家」ということになります。

※当然基準に適合しない建物は、中古流通市場でも低い評価となりますが、
   中古流通の活性化についての話をし始めると長くなるので、
   またの機会に・・・


ドイツの話に戻しますが、
特にフライブルクでは、30年近く前から環境対策への取り組みを本格化させてきました。

脱原発、コージェネ発電推進、住宅の省エネ推進、
今日本が取り組まなければならないと思い始めているものが、
30年前には取り組まれていたのです。

住宅においては、築年数の古い集合住宅の省エネ改修が推進され、
街中にリノベーション済の物件を目にすることができます。

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シュッとした建物ですが、築年数30程度でしょうか。

見分け方は窓の深み。

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日本では考えられない分厚い断熱材を外から張り、
超高性能なサッシに取り替えてあるため、
多少建築の知識がある方なら一目で改修済みだと分かります。

戸建てより集合住宅に住んでる割合の方が高いため、
効率的に国全体の建物の性能を上げるために、集合住宅の改修が推進されてきました。

新築住宅については、
厳しい性能基準をクリアしたものしか建てさせなければよいだけです。

言うのは簡単ですが、、、

ちなみに2021年ドイツでは、
外からエネルギーを持ってくる建物は建築不可になるとか。
パッシヴ住宅ではもう時代遅れ、二アリーゼロ住宅が義務化されます。

当然国の政策として義務化が推進されていますので、
建材のレベルも段違いです。


例えばサッシ。

日本で住宅の断熱性能を高めようとした場合、
壁の断熱を厚くすることは比較的容易ですが、窓の性能を上げることは容易ではありません。

日本で流通してあるサッシの性能が低いからです。
U値(熱貫流率)が低いほど高性能なのですが、

日本では高性能サッシでもU値(熱貫流率)は2程度。
ドイツではその程度の性能のものはそもそも製造できません。

ちなみに今年はU値1.0が義務化されるとのこと。
中には0.4といったものも存在するそうです。

どのくらい凄いのかはお伝えしづらいのですが、
ドイツのサッシと同等程度の性能のサッシにしようと思えば、
日本のペアガラスのサッシを、3枚合わせて取り付けるイメージ、
といえばお分かりいただけるでしょうか?



日本でも・・・

2020年の断熱義務化以降には、
太陽光を載せただけの偽物のエコ住宅や、「中気密中断熱」の家は
建てられなくなり、中古市場でも資産価値の低いものになります。

法律で義務化されるからという訳ではなく、
先進国の中で「最も住宅の性能が低い国」と失笑を買っている日本で、
建築に携わるものがやるべきことは、

「一次消費エネルギーを極限まで削減する建物」

をつくる努力をし続けることではないでしょうか?


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全く旅行記っぽくないブログになりました。。。

最後に旅行っぽい写真を。

ディナーで訪れた、山の上のレストランから望むフライブルク市内。
ちなみにこのときの21時位です。

残念ながら食べ物の写真はありません(汗)




Logic Architecture 吉安タカユキ

http://www.arc-logic.net/